花日記
ぎゃあぎゃあと叫びながらの追い掛けっこ。
時々、手に持っていた扇やらそこら辺に転がった脇息を投げつける。
正家はひょいひょいとそれをかわしながら、見捨てないでくれだのと叫び、追い掛けてくる。
「来るな、馬鹿っ!!」
「公方様ぁ~!!!」
正直、こいつの顔が可愛くなけりゃ、かなり気持ち悪い。
自分で投げた扇に躓いて、俺は正家に捕まってしまった。
「お願いでございます!!
それだけは御容赦をっ!!」
そういいながら俺にしがみついてくる正家。
「やめろっ!!
放せっ!!!」
またぎゃあぎゃあ言い合っていると、襖が開いて、大きなため息が聞こえてきた。
「やめろ、この男色家どもっ!!!」
ごつーん、と鈍い音がし、頭に痛みが走る。
「あ、兄上…」
「成兼…」
二人の声が重なる。
成兼は真顔で俺達を引きはがした。
「兄上、聞いてくださいよ。
公方様ったら、私に暇を出すだなんて言うんですよ。」
「当たり前だ。」
俺は間髪入れずに言った。
「公方様ぁ~」
泣きそうになりながら、正家は今度は成兼にすがる。
「日向、俺は公方様ではない。
それから、お前たちは何をしたらこういう状況になるんだ。
最近、脱走しないと思っていたら、まさかそっちに目覚めたか。
よりにもよって、正家と…」
「断じて違う!!!!」
俺は思いっ切り叫ぶ。
正家も驚いたが、すぐにまんざらでもない顔になる。
「俺はそれでも…」
「正家っ!!!」
やめてくれ、とまた叫ぶ。
成兼はまた大きなため息をついた。
それから、真面目な顔になって、
「大御所様がお呼びだ。」
と言った。