花日記

昼過ぎに、今度は母上に呼び出された。



母上は、本当に幾度となく俺を助けてくれた。



それこそ、数え切れないくらいに。



それに、俺に正家と成兼を付けてくれたのも、母上だった。



身分のない、孤児だった二人を側近にするのに、親父は大反対だったが、母上が説き伏せてくれたのだ。



親父も、二人の有能さを目の当たりにして、今ではちゃんと認めてくれている。



「母上、義量でございます。」



親父と違い、母上には取り次ぎなんてものはいらない。



むしろ、取り次ぎをさせると怒られる。



親子なのに、水臭いと言って。



「義量、いらっしゃい。
美味しい干菓子が手に入ったのよ、一緒に食べましょう。」



ただし、母上はいつまでたっても俺を子供扱いする。



「は、はあ。
では、いただきます。」



母上の前に座って、干菓子をひとつ口に入れる。



甘さが口に広がって、なんとも言えない感覚だ。



「まさか、あなたが側室をつくるなんてね。」



母上は笑いながら言った。



「母上もご存知でしたか。」



「もちろんよ。
あなたのことなら、私はなんでもお見通しなのよ?」



この人は無邪気なんだ。



年相応に、落ち着いてもいいと思うのに。



「名はなんと言うのですか。」



「…夏目、綾子と。」



「夏目?
その方は、武家の娘かしら。」



夏目という苗字は、あまり聞かない。



武家だとしても、陪臣にいるかいないかだ。



「い、いえ…」



「違うの?
苗字をお持ちなのに?」



うーん…。



どうすれば、ごまかせるのか…。



あれこれと考えるが、どうにもうまいごまかし方がわからない。


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