花日記
綾子はたしかに俺の側室だ。
だが、側室というのは御所におくための、いわば方便だ。
お互いに好きあっている間柄ではない。
「あの、えっと…」
綾子もなかなか答えられないようだ。
母上は綾子をじっと見ている。
綾子も、ここで下手なことを言ってはならないことくらいはわかっている筈。
「…や」
「や?」
「優しい、ところです………」
「優しい?
あの子が!?」
母上、何故、俺が優しいと言われてこんなに驚いているんだ…。
驚きすぎだろ。
俺自身、俺が優しいとは思っていないが。
「そう、そうなの。」
母上はうんうんと一人で頷いている。
「きっと、貴女だから優しいのね。」
「えっ…」
「あの子、今までは女なんて欲望の処理道具くらいにしか思っていなかったのよ。
でも、貴女のことはとっても大切にしているのでしょうね。」
ふんわりと微笑む母上。
固まる綾子。
妙にいたたまれなくて、頭を掻く俺。
母上だけが、にこにこと嬉しそうに笑っていた。