花日記
部屋の中で、浴びるように酒を呑んだ。
親父も、日野も、政も、皆どうだっていい。
親父の背中が大きすぎて、自分がちっぽけに見えて。
御所に居たくなくて、街へ飛び出した。
もう、日が暮れかけているから、そうは見つからないだろう。
酒に酔ったのか、少しばかりふらふらとした足取りで京の街を歩く。
市の店はもう店じまいを始めており、かわりに物ではなく、身体を売ることを生業にして生きている奴らが、路地の向こうに現れるはじめている。
ただ、そういう奴らは、病だとか、遊郭が買ってくれない何かしらの理由のある奴らだ。
後々、面倒な事にも巻き込まれるから、俺は絶対に相手にしない。
いくら遊んでいるとは言え、それくらいのわきまえは、ある。
遊郭の連なる色街に足を踏み入れると、今日はそこがなんだか騒がしかった。
ぎゃあぎゃあと喚き散らす男たちの声がする。
…ああ、最悪だ。
こういうのに、関わりを持つのは勿論、少しでも絡まれそうになったら、本当に面倒くさい。
身分が、重荷になるくらいに。
何事も無いうちに、さっさと御所に帰るしかないか…。
諦めて、色街に背を向けた時、大きな木屑が飛んできたのを感じた。
昔からいろいろあったせいで、背後の気配にやたらに敏感になっているから、難無くそれを避けられたが、
そのせいで、要らぬ注目を浴びてしまった。
街行くもの達が、更にざわざわと騒がしくなる。
本当に、最悪の事態、一歩手前。
くそっ。
早足で街を出ようとしたら、目の前に大男が立ち塞がる。
もう、ため息も出ない。
こんなやつ、相手にしている場合ではない。
そう思った瞬間、何者かの手によって、建物の間の狭い空間に引き込まれた。