花日記

「さ、公方様こちらへ。」



夕凪は俺の手を引いて日の沈みきった京の街を進む。



触れる手の温かさに動揺しているのを必死に隠しながら。



羅城門からそれほど離れていない、京の影の集まる場所から、守護屋敷や公家屋敷の集まる洛北まで進んでいく。



三条坊門第(*将軍の御所)までの遠い道のりを、ただ黙って歩いて行く。



気まずさとか、そういうものは不思議と感じなかった。



坊門第の目の前に来たところで、夕凪が足を止めた。



ここから先へは、ただの白拍子である夕凪には、行くことの叶わぬ場所だから。



それから、ハッとして手を離した。



「も、申し訳ござりませぬ。
私、つい夢中で…」



夕凪は申し訳なさそうに顔を伏せた。



「かまわん。
こっちだ。」



今度は、俺が夕凪の手を取って歩きだした。



俺の、遊び用の隠し扉のところまで。


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