花日記
「いや、それは…」
違うと言い切れない。
こんなところにまで、町娘を、よりにもよって白拍子を連れてきてしまったのだから。
白拍子は、ただの舞妓ではない。
言ってしまえば、遊女だ。
男に春を売る、遊び女。
夕凪は、この前のこともあるし、まだそれをさせられていないだけで、いつかはそれをしなければならない身。
民の中でも底辺にいるような女だ。
それを、天下を治める幕府の、将軍のそば近くに連れてきたということは、そういうことなのだ。
妾にする、遊び女として囲うということ。
俺は、そんなつもりなどさらさらなく、夕凪を連れてきてしまった。
「まったく、あなた様は姫をご側室になされてからまだ日も浅かりましょうに!」
「あ、ああ…」
「街の白拍子の産んだものなど、ただの庶子にございます。
到底、お世継ぎになれるわけではござりませぬ。
それに、あなた様には、姫もいらっしゃれば、まだ日野家の姫君との縁談も…」