花日記

「つーか、天下の将軍様が街で会った女を御所まで連れてくるかよ。
しかも、ご丁寧に手ェまで繋いで。」



「は?」



何でこいつ、俺が夕凪と手を繋いでいたの知ってるんだ?



「おっといけね!」



成兼は慌てて口を噤んだ。



「兄上、完全に手遅れですから。」



「あ、やっぱり?」



「どういうことだ?」



自然と眉間に皺が寄る。



「いや、だからさ、さすがに公方様を一人で街に出すわけにゃいかないだろ?
だか、毎回俺が護衛という名の尾行というか、していたわけよ。」



「なに?」



「んで、大御所様には護衛付きのお忍びだとか何とか、とにかく言い訳並べて、お前の脱走を知らん顔してたってこと!」



「つーことは…」



「ま、ついさっきまで、お前の行動を張ってたってわかけだ。」



「…はぁぁあ〜」



もはや、盛大なため息しか出てこない。



成兼がそういう言い訳で親父をごまかしてたってことは、俺の街での行動なんか筒抜けだ。



もう、綾子そっくりの夕凪の存在だって、知っているに違いない。



何というかもう、情けなくてならない。



それに、あれほどひとの気配には敏感なはずの俺をつけていたのだから、やはり成兼は優秀だということか…。

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