花日記
綾子だ…!
この世界に、綾子が居る。
見間違うはずが無い。
あの時の、あの奇妙な着物を着た綾子が、薄墨色の地面を歩いている。
何処に向かって…?
『っ…綾子!』
声が届かないのか!?
待ってくれ、どうか…
“ここ”が何処なのか、教えてくれ!
「……ま。
………さま!
公方様!」
「綾子!」
「公方様!
如何なされました!?
あれ程までに、うなされて…」
「ああ、日向か。」
「もう朝でございます。
それに、このような所で眠ってしまわれては、お風邪を召されます。」
「朝…。」
随分と眠ってしまったようだ。
それに俺の周りには、漢詩の書物が散乱している。
「姫が、どうかされましたか?
綾子とお呼びになっていらっしゃいましたが。」
「いや、何でもない。
朝餉を用意してくれ。」
「…かしこまりました。」
正家は、心配そうな顔を浮かべて朝餉を取りに向かった。