青騒-I SAY LOVE-

ちょっと疵の入った真っ白な携帯電話を操作して赤外線モードに入るケイさんは、先にアドレスを送るからと発言。

私は急いで受信モードにして赤外線部分に自分の携帯を当てた。
 
入手するまでにはとても時間の掛かったアドレスだけど、いざ自分の携帯に取り込んでみるとあっ気ないもので、数秒も掛からず相手のアドレスが私のアドレス帳に登録される。

あんなにアドレスのことで一憂一憂していたのに…、だけど純粋に嬉しい、新たなアドレスが自分のアドレス帳に増えるって。


それが自覚したばかりの相手のアドレスなら、尚更。

 
「送りますね」私はケイさんに声掛けをした後、受信モードから送信モードに画面を切り替えて自分のアドレスを送る。

「サンキュ」ケイさんは屈託ない笑顔でお礼を口にすると、自分のアドレス帳に登録されているかどうか確認を始める。
 

一連の動作を恍惚に見つめる私がいた。

 
至近距離で他愛もない動作を、飽きもせず見つめ続けられる自分がいて驚くけれど、何故か目が放せなかった。


飽きるどころか、一つひとつの動作を目に焼き付けておこうとする私がいる。


向こうが視線に気付いた素振りを見せると、ササッと視線を逸らしてオレンジジュースの入ったグラスに手を伸ばす。

殆ど中身の入っていないオレンジジュースをストローで吸って誤魔化しごまかし。

向かい側から丸帯びた笑声が聞こえたけれど、主は分かっていたから視線を向けることは無かった。
 

代わりに目は自然と隣に流れる。
 

携帯を仕舞った彼は、「なんか食べたいかも」小腹が減ったとメニューを開いていた。

ガッツリ食べると夕飯食えなくなるし、デザートにしようかな、独り言を漏らすケイさんに何か声を掛けたかったけれど、

「チョコケーキがいい」

モダモダしている間に弥生ちゃんに先制されてしまう。

「なんでチョコケーキ限定だよ」ケイさんの疑問に、

「私が食べたいから」半分頂戴ね、彼女は悪戯っぽくはにかんだ。
 
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