青騒-I SAY LOVE-

そのお母さんが余分なチケットを貰ったとケイさん伝いに聞いて、「映画行く?」彼から聞かれて、初デートは王道に映画に行くと決まった。

成り行きでデートコースが決まったけど、チケットは使わないと勿体無いし、すんなりデート場所も決まって万々歳。

じゃあ今度の土曜日に観に行こうって話になって、今、こうしてチケットを貰っている。
 
泣きたいくらい嬉しいそのチケットを胸に押し当てて、


「楽しみにしてます」


私はケイさんにお礼と気持ちを一緒に告げた。


「お…おう」


戸惑い、というより照れ気味のケイさんはぶっきら棒に返事をして、頬を掻きながら視線を逸らした。

照れてる姿に笑ってしまったけれど、それは私だけの秘密。ケイさんに気付かれたら拗ねそうだから。

何度もチケットに目を落として気持ちを弾ませていると、「良かった」ケイさんが不意に言葉を投げてくる。

何が良かったのか、思わず彼と視線を合わせれば、ボソボソっとケイさんが呟く。
 

「ほら…、俺、ヨウの舎弟だからさ…。
今までバタバタしてたし…、それらしいこと…、なかなか、ココロにしてやれなかったし。喜んでもらえて…うん、安心」
  
 
ホッと胸を撫で下ろすケイさん。
 
ケイさん、ちゃんと私のこと気に掛けてくれてたんだ。

ううん、ちゃんと分かってたけど、改めて本人から直接聞くと凄く嬉しい。

どうしよう、ドキドキするほど嬉しい。


俯く私に、ケイさんも空を仰いで煙草をプカプカ。甘い沈黙が流れた。
 

私達、こうして沈黙になる事が多い。

恋愛初心者だからかもしれないけれど、異性とのやり取りがなかなかスムーズにいかない。

もどかしい時間に身悶えすることも多々ある。

 
―…だけど、この時間も嫌いじゃない。
 
 
私はケイさんを盗み見た後、たっぷり間を置いて座る距離を縮めた。

視線は逸らしたままだけど、ケイさんも軽く距離を詰めてくれる。

「煙草の臭い、大丈夫?」

今更な質問を投げ掛けながら。

話の糸口を探していることくらい容易に分かるけど、私は敢えて気付かぬ振りをして大丈夫だと笑って見せた。
< 18 / 322 >

この作品をシェア

pagetop