青騒-I SAY LOVE-
引き戸式の扉を潜ると、「ただいま」ケイさんが家内に挨拶。私もやや大きめにお邪魔しますと挨拶。
反応はない。
確かケイさんはお母さんが家にいるって言っていたんだけど、もしかしてお留守なのかな?
首を傾げる私を余所に、「まさか」ケイさんはヤーな予感がしてきたと靴を脱いで家に上がる。私も急いでサンダルを脱いで彼の背を追う。
ケイさんと居間に入ると、オイオイシクシクと泣いているケイさんのお母さんがいた。
驚く私を余所に、「やっぱり」ケイさんは額に手を当て溜息を零す。
どうしてケイさんのお母さんが泣いて…、あ、テレビを観て泣いているみたい。ということはドラマを観て泣いているのかな?
ティッシュで鼻をかんでいるケイさんのお母さんは、
「私のチョ・ドンソクが」
あんな末路を迎えてしまうなんてっ、どーんと落ち込んでしまっている。
「親友の裏切りを素直に受け入れ、彼から殺されてしまう運命を受け入れてしまう。チョ・ドンソクっ、貴方の生き様は悲し過ぎるわ!」
「もしもし母さん。息子が帰宅してきたんだけど」
「圭太。邪魔しないで頂戴。母さん、これから九話を観なきゃいけないの。息子の帰宅より、今はチョ・ドンソク。韓流万歳」
途端にケイさんは握り拳を作った。
ケイさんの調子ノリって絶対お母さん譲りだと私は思う。
光景を見守れば見守るほど、ケイさんのノリが重なってくる。
体を微動させているケイさんは、ずかずかと居間の奥に入ってテーブルの上に置いてあるリモコンを奪うと、一時停止ボタンを押した。
「あーっ!」
叫ぶケイさんのお母さんに、ケイさんは引き攣り笑いを浮かべる。
「お母さん。僕、彼女を連れて帰宅してきているんですけど!」
「んまっ、圭太! 何をするのっ。今、すっごくいい…、えっ、彼女?! こころちゃんがいるの?! ちょ、なんでそれを言わないの。
母さん、今、顔がぼろぼろよ。
とにかくティッシュで涙を拭いて。
それで、それでっ、こころちゃん、こんにちは。ごめんね、おばさん、韓流に夢中で!」
慌てて腰を上げるケイさんのお母さんがティッシュを屑篭に入れて、こっちに歩んでくる。
「あら可愛い」
私の姿かたちを褒めてくれるケイさんのお母さんにご挨拶して、私は手土産を差し出す。
「まあまあ」ありがとうと受け取ってくれるケイさんのお母さんは、ケイさんに肘を入れて貴方も隅に置けないわね、と揶揄。
まるで男子の悪乗りみたいなことをするものだから、ケイさんは煩いと一蹴していた。
面白いお母さんだと思う。