青騒-I SAY LOVE-
胸糞悪いとヨウさんは鼻を鳴らし、踵返して私達に声を掛けて来た道を歩き出した。
会わせてもらえないと判断したみたい。
泣いている弥生ちゃんに、「今日は諦めようぜ」ヨウさんは慰めの言葉を掛けていた。
うんっと頷く弥生ちゃんは理解を示していたけれど、大人との対峙がまた涙を誘ったみたい。
ボロボロ泣いてハンカチを握り締めていた。
私は弥生ちゃんの側に寄り添うことしかできなかった。
病院を出るとヨウさんは私達に解散だけ放って、一人どこかに歩き出す。
それこそ傘も差さず。折角着替えたのに、また服が雨に濡れ始めた。
どこに行くのか見当もつかない。
果敢無い背中を見送っていると、「ごめんココロ」弥生を頼むな、背後から声を掛けられた。
首を捻ると、開いた傘をわざわざ畳んでいるケイさんの姿。
弥生ちゃんの傍にいるよう指示を促すケイさんは、やや腫れた目を和らげ、傘を閉じたまま駆け出す。
向かうはヨウさんの下。
「待ってくれよ」
俺を置いていくなんて酷いぜ、声音を張るケイさんはヨウさんと肩を並べていた。
向こう側では力なく笑っているヨウさんの姿が。
「お前。カッコ良かったよ。惚れそうだった。このイケメンめ」
ハジメさんのご両親に放った言の葉達を褒める彼は、舎兄の横腹を軽く肘で小突く。
「ならいいんだけどな」
微かに聞こえる会話を最後に、二人は降り頻る暗い雨の中に消えてしまう。
「……、ヨウさん、思いつめてるな」
モトさんがポツリと零す。
「大丈夫か?」キヨタさんの気遣いに自分は大丈夫だとモトさんは答を返す。
それより心配なのは、物言いたげな表情を作るモトさんはケイに託すしかないと吐息をついていた。
嫉妬心は垣間見えない。
純粋に彼はケイさんに兄分を任せているみたいだ。
成長したなぁっと思う。少し前のモトさんならムキになって張り合うところだろうに。
私は弥生ちゃんに、「明日。一緒にお見舞いに行こう」と声を掛けた。
きっと明日には会えるから。弥生ちゃんにそう励ますと、何度も彼女は頷いて私の言葉を受け入れてくれた。
というより返事でいっぱいいっぱいなんだと思う。
本当は聞き流しているのかも。
それも仕方がないことだ。ハジメさんがあんな目に遭ったのだから。
「うちも明日一緒に行ってやっから」
響子さんの励ましも首肯で返し、私達は弥生ちゃんと一緒に帰路を歩く。そしてその日、私達は響子さんの家で一夜を明かした。