青騒-I SAY LOVE-
大人の生々しい現実を知ってしまった私達は、これ以上病院にいたくないという弥生ちゃんの訴えによって病院の外へ。
弥生ちゃんは覚束ない足取りで、でも懸命に病院の外まで歩き、ひたすら感情を押し殺している様子だった。
声を掛けても反応しない弥生ちゃんは、ふと顔を上げて足を止める。
私達も足を止めると、彼女の見ている先に視線を流す。
そこには丁度お見舞いに訪れたヨウさん達の姿が。
血の気のない弥生ちゃんを心配したヨウさんが、そっと彼女に歩んで声を掛けた瞬間、弥生ちゃんはわっと泣き出してリーダーの胸に飛び込んだ。
「弥生?」
どうしたんだ、向こうの親がいたのか?
ヨウさんの言葉に弥生ちゃんは消えたんだと彼の胸を叩いた。
「ハジメっ…、病院いなくってっ、消えちゃった。きえっ、会えない。もうあえっ、ウァアアアアア!」
「消えたって。どういう…、響子。ココロ」
説明を求めるヨウさんに、私達は目を伏せ意味はそのまんまだと返した。
「あいつの親がうち等と縁を切らせるために、病院を移し変えたみたいなんだ。ハジメはもうそこの総合病院にはいねぇ。
誰に聞いても教えてくれやしねぇ。
なんてザマだっ、金で…、金でっ、こんなことに」
「嘘だろ。じゃあハジメは」
消えちゃったのだと連呼する弥生ちゃんは、もう会えないかもしれないと延々ヨウさんの胸で涙した。
どんなに仲間だと言っても大人の権力の前じゃ無力。
自分たちは何もできない。
「こんなことなら」
ちゃんと好きって言えば良かった…、しゃくり上げる弥生ちゃんに耐えかねてヨウさんはごめんと彼女の頭を抱きしめた。
自分がもっとしっかりしておけば良かった、そう自責するヨウさんに違うのだと弥生ちゃんは声音を震わせる。
「ヨウっ…、なにもわるくない…、わるくないんだよっ…、なあんにも…っ」
でもハジメが消えたこと、すっごくショックで。ショックで。ショックで。
「はじめっ」
ハジメに会いたい…、泣きじゃくる弥生ちゃんに何もできず、言葉すら掛けられず、私達は佇むことしかできなかった。
ヨウさんは強く弥生ちゃんを抱きしめて、「ごめん」本当にごめんと繰り返し詫びていた。
誰もリーダーのせいなんて思っていないし、責めようとも思わない。
けれどヨウさんは何度も謝罪していた。
大好きだったチームメートが消えてしまったことを、消えさせてしまったことを、何度も謝罪していた。