青騒-I SAY LOVE-


「だってあいつ、チームが大好きだったんだ。そりゃ手腕なんてないけど、あいつはチームが大好きで、自分の意思で此処にいた。弥生のこともある。
あいつは傷付けられても、あんなにボロボロでも自分の足で戻ってきたんだ。きっと帰ってくるよ」
 

綻ぶケイさんは、「そう信じたいだろ?」と付け加える。

同じ表情を返す私は相槌を打ち、ボタンを押してホット珈琲を買った。

取り出し口から缶を取ると、「ケイさんは強いですね」振り返って一笑する。


こんなことがあった後なのに、毅然と私を励ましてくれるなんて“強い”しか言いようがない。


「ご冗談を」


ケイさんは苦笑いを零し、自分に言い聞かせている台詞を私にぶつけただけだと告げた。

そうでもしないと重苦しい現実に圧死されそうだとケイさん、「俺は強くなんてないさ」強く見えるなら見栄張っている証拠だと彼は言う。


「ただ俺よりも落ち込んでいる奴がいるって知っているから俺自身、そんなに落ち込んでいられないって気持ちもあるんだ」
 

ケイさんの指す“奴”が誰なのか、手に取るように分かる。


「俺にできることは」


あいつが崩れないようつっかえ棒になってやることなんだと、ケイさんはまたひとつ苦笑し、財布を取り出して五百円玉を投入口に押し込む。


「支え棒じゃなくて、つっかえ棒なんですか?」


笑う私に、「俺にぴったりだろ?」支え棒なんて大それた肩書きにはなれそうにない、だからつっかえ棒なのだとケイさんはおどける。

落ち込んでいる相手をそれ以上、落ち込ませないようにつっかえ棒になる。

それが自分にできることだとケイさんは断言した。


まるで自分の役目を知っているかのよう。



ああ、やっぱりこの人は強いなぁっと思った。

 

「ココロもさ。あんま思いつめないで、自分のできることをすればいいんだよ。弥生のことで何か思うことがあるんだろうけど、ココロは精一杯のことをしているんだから」
 


サイダーを購入したケイさんは、早速自販機から取り出してプルタブに指を引っ掛けた。

缶に口をつけて喉を潤すと、「ダイジョーブ」ハジメは絶対帰ってくるから、私の頭に手を置いて励ましをくれた。

「実はさっき弥生にも」

大丈夫って言ったんだ、確信もないのに調子ノリは見栄を張ってきたのですよ。

これは秘密話だと人差し指を立てるケイさんに呆気取られる。仲間に気遣う余裕がケイさんにあるのか分からない。


でもケイさんは、仲間を気遣えないリーダーの分まで誰彼に気を配っている。


それは舎弟として動いているのだろう。

以前、ケイさんは私にこんなことを教えてくれた。

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