青騒-I SAY LOVE-
けれど心配無用だと思ったのは、それから暫く経って。
素人の手では消火活動が間に合わないと踏んだ響子さんが消防車を呼ぶため、携帯で連絡している真っ最中に二人は戻って来た。
ヨウさんは失神している五十嵐さんを背負い、ケイさんは愛用している自転車を押し、揃って歩調を合わせている。
何故かずぶ濡れの二人。
どうして濡れているのか、そんなこといっとも疑問に思わなかった私は姿を見るや否や緊張の糸が切れた。
「ヨウさんっ、ケイさん…、ケイさん―――ッ!」
硬いアスファルトを蹴り、ダボダボのブレザーの袖を靡かせながら走る。走る。はしる!
火事によって照らし出される荒川チーム舎兄弟。
轟々燃える炎に映し出される二人は、どちらもカッターシャツ姿だ。
緋色のブレザーは着ていない。
涙声で彼の下に走る私に気付いたケイさんは、自転車のハンドルから手を放し、飛び込んでくる私の体を受け止めてくれた。
愛用の自転車は悲鳴を上げてアスファルトに叩きつけられているけれど、彼は構わず私を抱擁した。
すぐそこに見える黒々とした海に落ちたのか、ケイさんの濡れた体はややべたついているけれど構わない。
抱擁を返して、私はそれまで軟禁されていたこととか、恐怖心とか、過去のトラウマとか。
なにより無事に戻って来てくれた二人の、彼氏の姿に安心して私はほろほろりと目尻から雫を流した。
ヨウさんの背にいる五十嵐さんの姿で、この喧嘩の結末は理解できる。
「勝ったよ」
頭上から聞こえるケイさんの声音は昂ぶっていた。
視線を持ち上げると、「終わったんだよ」ケイさんは泣き笑いを零して終わったんだと繰り返した。
悪夢の72ゲームは終わった。ケイさんの言葉に何度も頷いて、私は彼といつまでも抱擁を交わしていた。
うねりを上げている炎の音をBGMに―――…。