クロトラ!-妖刀奇譚-


怪しい。



無論、士族の中には断髪していない者もこっそり帯刀している者もいくらでもいる。




が、この人気の薄れた黄昏時に、わざわざこのしけた弁当屋台を訪れるというのは怪しい。







それでも片眼の男は何ら警戒の色を見せることなく、何食わぬ顔で握り飯の包みを客に渡した。


客は確かに怪しいが、殺気はないし仲間があたりに隠れているようなこともなさそうだ。

…相手が1人なら、彼にとっては例え背中の長脇差しで斬りかかられても問題ない。





――読み通り、客はただ握り飯を受け取り、代金を手渡して帰って行った。








「…さて。今夜はどうやら夜更かしだな。」




客が帰るのを見送って、男はぼやいた。



掌中には、握り飯2つ分の代金と、小さくたたまれた紙切れが1枚のっていた。



『今宵、月の暮れに、三本柳の下で。』





――男のもうひとつの稼業への依頼状だった。



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