クロトラ!-妖刀奇譚-
× × × ×
――深夜。
川沿いに立ち並ぶ柳の陰に隠れるように、一軒の担ぎ屋台が立っていた。
片眼の男の弁当屋台である。
灯りひとつ点けず、息の音ひとつ立てず、屋台も男もそこに居座り続けた。
通り掛かる者がいても、あまりの気配のなさに見過ごしてしまっただろう。
「1つ頼む。」
半刻も経った頃、男の視界に突然わらじ履きの足が現れた。
男は頬被りを少し持ち上げて足の持ち主を仰いだ。――夕刻訪れた侍姿の客だ。
「まあ、座ったらどうだい。」
ぼろぼろの筵(むしろ)を地べたに敷いてやると、客は袴の裾をさばいて腰を下ろした。
そのまま黙って、この弁当屋が握り飯と湯呑みを手際よく台に並べるのを見ていたが、やがて軽くため息をついた。
「…これが鬼童と騒がれたかつての天才剣士の成れの果てとはね。
悲しくはならんかね、空岩(からいわ)殿。」
――深夜。
川沿いに立ち並ぶ柳の陰に隠れるように、一軒の担ぎ屋台が立っていた。
片眼の男の弁当屋台である。
灯りひとつ点けず、息の音ひとつ立てず、屋台も男もそこに居座り続けた。
通り掛かる者がいても、あまりの気配のなさに見過ごしてしまっただろう。
「1つ頼む。」
半刻も経った頃、男の視界に突然わらじ履きの足が現れた。
男は頬被りを少し持ち上げて足の持ち主を仰いだ。――夕刻訪れた侍姿の客だ。
「まあ、座ったらどうだい。」
ぼろぼろの筵(むしろ)を地べたに敷いてやると、客は袴の裾をさばいて腰を下ろした。
そのまま黙って、この弁当屋が握り飯と湯呑みを手際よく台に並べるのを見ていたが、やがて軽くため息をついた。
「…これが鬼童と騒がれたかつての天才剣士の成れの果てとはね。
悲しくはならんかね、空岩(からいわ)殿。」