クロトラ!-妖刀奇譚-
客の男はうなずくと、通りにちらりと目を走らせた。…深夜のこと、無論通りがかる者などいないが、男はますます声を低くした。
「おそらく反政府派の中でもかなり過激派…"遊義斎"一派のやりそうなことだと我々は考えていたのだが…」
"遊義斎"とは、近頃評判の反政府活動家の名だ。殺しに火付け、略奪と荒っぽい活動で有名な一派なのだが――
「調べてみたが、どうも連中ではないらしい。
…それどころか、我ら同志の中で"おなご弁慶"の正体を知る者が一人としていないようなのだ。」
「…ほう。」
この言葉にワサビも眉をしかめた。
この手の活動家たちは、敵である政府側の動き以上に、同類の他派閥の動きに神経を使っている。
――その中で、志を同じくしながら誰一人その情報を持っていないという"おなご弁慶"。
「何者なんだ、そいつは…」
うなるようにつぶやいたワサビに、客の男はため息を吐き掛けた。
「それを貴殿に聞きに来たんだがね、情報屋さん。」