クロトラ!-妖刀奇譚-
おなご弁慶
× × × ×
大気がねっとりと重い夜だった。
満月が沖天に掛かってはいたが、分厚い雲がドロドロと空いっぱいに流れていて、その清らかな光は下界に恩恵をもたらさない。
1人の若い男が、堀端を歩いている。
この蒸し暑い中、彼のいでたちはいかにも暑苦かった。
黒に近い深緑色の詰め襟の上着に、同色のズボン。
ピカピカの革ブーツはひざ下まで脚を覆っていて、いかにも蒸れそうだ。
上着と揃いの色で仕立てられた帽子も、日の照らないこの真夜中にはいたずらに暑さをあおるだけのものに見えた。
真夏には奇妙な格好だが、この姿を見る者があれば、一目で彼が警官だと分かっただろう。
堅い詰襟を緩めることなく着こなし、新品のベルトに日本刀を提げた正装で、男は虫の音もかまびすしい堀端を小走りに急いでいた。
大気がねっとりと重い夜だった。
満月が沖天に掛かってはいたが、分厚い雲がドロドロと空いっぱいに流れていて、その清らかな光は下界に恩恵をもたらさない。
1人の若い男が、堀端を歩いている。
この蒸し暑い中、彼のいでたちはいかにも暑苦かった。
黒に近い深緑色の詰め襟の上着に、同色のズボン。
ピカピカの革ブーツはひざ下まで脚を覆っていて、いかにも蒸れそうだ。
上着と揃いの色で仕立てられた帽子も、日の照らないこの真夜中にはいたずらに暑さをあおるだけのものに見えた。
真夏には奇妙な格好だが、この姿を見る者があれば、一目で彼が警官だと分かっただろう。
堅い詰襟を緩めることなく着こなし、新品のベルトに日本刀を提げた正装で、男は虫の音もかまびすしい堀端を小走りに急いでいた。