クロトラ!-妖刀奇譚-
――賊だ。
久坂は切っ先が当てられた首筋から、寒気が広がっていくのを感じた。
「お前、警官だな?」
背後の賊が言う。
それは暗闇にはばかるようなかすかな声だったが、鋭さを持って久坂の耳を打った。
「だ、だったらなんだと言うのだ」
答える声がみっともないほど震えた。
(…もしや、反政府派の者か!)
連中の中には、役人というだけで憎んでいるような輩もいるという。
もしそんな賊なら…切っ先がこのまま久坂の喉笛を貫くか、かどわかされて人質にされるか…
いずれにせよこのまま無事では帰れまい。
「な、何が目的だ?!金か?」
「金など要らない。」
全身に冷や汗をかきながらベタなセリフを叫んだ久坂に対して、賊は冷淡に返した。
そして、不思議な言葉を久坂に投げ掛けた。
「――お前、"クロトラ"を知っているか?」