クロトラ!-妖刀奇譚-
"母"は突然現れた。
学校帰り、駅から家へと向かう道すがら、友だちと別れた瞬間だった。
「…護藤沙市、ちゃん?」
いきなり背後から声を掛けられた。
「はい?」
振り返るとそこに、彼女がいた。
それは自分の生活とかけ離れた感じの大人だったけど、女の面立ちには奇妙な親しみを感じた。
その妙な感覚に戸惑っているうちに、目の前の女は見る見るうちに瞳を潤ませはじめたではないか。
「…?!」
困惑する沙市の肩を掴んで、女は感極まったように言った。
「沙市ちゃん、私ね、アナタのお母さんなの。」
――何をおっしゃってるか分からないと、手を振り払ってしまうこともできた。
できなかったのは、先程の奇妙な親近感のせいと、"母"の言葉があまりに突飛で衝撃的だったからだ。
沙市が反撃や防御をする間もなく、"母"は潤んだ目のままで言った。
「アナタの名前…"沙市"っていうのはね、昔アフリカに旅行に行ったときに思いついたんだよ。
あそこで見た沙漠の市場みたいに、力強くてたくましい子になってほしいねって。アナタのお父さんと決めたの。」