クロトラ!-妖刀奇譚-
今日まで、親はいないと思ってきたのだ。
沙市が両親について知りたがることを、祖母は許さなかった。
「大きくなったら教えてやるから、今はばあちゃんで我慢してくれんかね。」
悲しげにそう言って。
だから沙市は、両親は死んだのだと思っていた。
否、死んだのだという設定にして、自分を納得させていた。
――自分の孤独には何かのっぴきならぬ理由があって、それは誰のせいでもないのだ、と。
祖母に悲しい顔をさせないということ。…それは沙市の世界の絶対の摂理になっていたから。
――…その摂理が、今日壊れた。
思ってもいなかった者の手によって、思いもよらないときに。
不意討ちだ。
あまりに卑怯だ。
これでは、沙市は抵抗することも逃げることもできない。