【完】天体観測 ~キミと見た星~


「もう良い」

それだけ言うと、木下くんはまた病室から出て行った。

「…ごめんね。椎名くん」

「…なんで謝るんだよ」

今の私に出る言葉は、“ごめんなさい”
それしか、言えない。

ガタガタガタガタ

私の手が急に、寒いかのように震える。

「…鈴原?」

「…っごめ、大丈夫だよ…」

これも症状の一つ。
私は幸せ者すぎて、つい、病気の事なんて忘れちゃうな。

「ははっ、恥ずかしいな…」

今もなお震え続ける右手。
早く止まれ。
止まれ…っ

――……

しばらくすると、やっと震えはおさまった。

「もう、私駄目みたいなんだ。今こうやって、喋るのも、実はやっとなんだ。すごく、集中してちゃんと喋るように頑張ってるの。そうしないと、ろれつが回らなくなっちゃうから」

情けない。
本当…情けないよ。

私は、横の机に置いてある、紙とペンをとった。

そして、「あいうえお」と書く。

その字は、震えてて、よく見えない。

「……」

「ね?もう…おばあちゃんみたい」

笑った。
もう…ここまで進行しちゃったら、笑うしかないじゃん。

「……ッ」

椎名くんは下を向く。

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