【完】天体観測 ~キミと見た星~
「ごめん、お待たせ」
夜の8時。
椎名くんは病室に入って来た。
「ううん。もう星出てきてるね」
「おぉ、行くか」
「うん」
私は杖を持って、椎名くんと病室を出た。
「あれ…なんで杖?」
「ちょっと…ね」
私は誤魔化した。
だけど、そんな嘘、椎名くんには通用しなかった。
「嘘言うなよ。なんだよ、言ってみ?」
「もう、私にも限界が来たのかもしれない…」
私は言わないと決めていたのに…
口は動いて、病気の説明をし始める。
「え?どーいう意味?」
「私ね、中学くらいからこの病気になったの。中学になって、よくこけるようになって、それで病院行って分かったんだ。今高校三年生になって生きてるって珍しいんだ。だから…もう十分かなって…。ここまで体は頑張ってくれたし…」
「は?だからどーいう意味だよ?」
「私の病名、脊髄小脳変性症って言うの。知ってる?」
「え…」
「ゆっくりだけど症状が進行していって…、神経細胞が徐々に破壊しちゃうんだ」
本当は、今から天体観測だから、こんな話したくなかった。
楽しく天体観測したかった。
だけど…今日はもう出来ないかもな…。
馬鹿だなー…。
「なんだ…よ…それ…。」
「…今日…、足の力が抜けた。……もう歩くのが難しくなるサインだと思うの」
「なんで…もっと早く教えてくれなかったんだよっ」
「言えないよっ!……言えるわけ…ないよ…」
「………」
「………」
長い長い沈黙が続いた。
「あのさ…」
私はその沈黙に耐えられなくて、
「もう今日は天体観測なしにしよう…」
そう言ってしまった。
「わかった…」
椎名くんは静かにそう言うと、
「じゃあな」
私に背を向けて、帰って行った。