籠のなかの花嫁
“なんだ・・・柊さんの驚く顔ちょっと期待したんですけどね”と、カクテルを飲みながら呟く若林。


それを小さく笑いながら、柊は視線を晴太に移した。



「察しますに、豊川様のお悩みとは、お相手である美羽様との距離の取り方ではありませんか?」


「名前まで・・・。距離の取り方って?」


「言い換えれば、男の性(さが)と戦っているのでしょう」



そう聞けば、若林も納得したのか“なるほど”と頷いた。



すると、それまで黙っていた晴太が重い口を開いた。




「ある事がきっかけで、美羽との距離が一気に近づいたんです」



ある事とは、昨日の例の事だ。



「それで、彼女にキスをしました。まだ完全に彼女に好かれているわけじゃないけど・・・触れたいと思う気持ちが止められなくて」



苦しそうに低い声で言う晴太に若林は動揺した表情を浮かべていた。



互いに想い合ってるとばかり思っていたからだ。



だが、事情を全て聞いていた柊は顔色一つ変えずに、こう言った。



「愛する女性に触れたいと思う気持ちは、止められません。そしてそれは同時にその女性への愛の大きさでもあります。豊川様が苦しむことではありませんよ」

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