籠のなかの花嫁
その翌日は、普段の美羽に戻っていたが、どこか晴太を避けていた。



「美羽」


「はい」



食事中でもいつでも、返事や受け答えはするが、目を合わせることは、ほとんどなくなってしまった。


これ以上、距離を広げたくない晴太は、何も聞かず、何も言わなかった。


いや、聞けなかったし、言えなかった。



「いや・・・何でもない。行ってくる。お前も登下校気を付けるんだぞ」


「はい、ありがとうございます」



バタン──────




はぁ・・・やっと行った。


一日中、あんな探るような目で見ていられると、息が詰まる。


お見合いは明後日。


《あぁ、もちろんお前のご両親もいらっしゃるよ。会うのを楽しみにしているそうだ》



何が楽しみよ。

心にもないことを。

この結婚だって、どうせ自分達の都合が良くなるように決めたことなんだろうし。



美羽はカレンダーを睨み付ける。





でもそれなら、短い間だけ良い思いをさせてあげればいい。


順調に結婚にことが運べば、あのおじ夫婦は喜ぶ。


そうすれば、それが失敗した時の悲しみや絶望は大きいはず。



「あたしが味わった苦しみを与えてやる」



美羽の唇は怪しく弧を描いたのだった。




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