恋愛中!!! ㊤巻
「聞いてないよー!!」と、マイクが入ってるにも関わらず叫ぶ海くんを本気で気の毒に思う。



でも今は人の心配より我が身の心配。



「“無理ー!!ちょっ、あっくんも何か言ってよー!!”」



「………ぐっ…グッドラック。」



「“ノォォォー!”」



グッと親指を立てた俺は、ムンクの叫びよろしく頬に両手を当てながら叫ぶ海くんからパッと目を逸らすと、未だ「ノォォォー!!」と叫びながら王子とシゲちゃんにズルズルと引きずられる海くん横目にホッと胸をなで下ろした。



とりあえずトップバッターは回避出来た。



「よかっ…」



「ってことで、お前は大トリな。」



「は?」



でも腕を組んだままニヤリといやらしい笑みを浮かべる健太を目の当たりに、ほんの少し浮上した気持ちは急降下。



「……うぷっ…」



手摺りで体を支え、再び込み上げてきたものを堪えるように口元を押さえる俺を冷ややかに見下ろしながら「このチキンがっ!!」と罵倒されようが言い返す言葉も見つからない。



「健太ぁぁ~。」



「あぁー、ウゼェ!!」



「でもぉ~…」



「“でも”…じゃねぇっ!!海くんだって今からオトコ見せんだろーがっ!!しかもお前と違っていきなりだぞっ!!準備ナシだぞっ!!その雄志をその目に焼き付けそれ以上の感動を…って思うのが普通だろーがっ!!」



「うっ…」



「ってか、そもそもこの企画そのものがテメェの為のテメェの企画だってこと、忘れたなんて言わせねーぞ。」



「うっ…」



それを言われれば何も言えない。



「立て。」



「………はい。」



ここで“でも”なんて言おうものならマジで殺される。



未だ込み上げる吐き気を堪えながらヨロヨロと立ち上がった俺は、ペチンと両頬を叩き気合いを入れると、無理やり拡声器を渡される海くんを見つめながら無言のエールを送った。



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