氷姫に騎士を


食い意地張った馬鹿。
でくくることが出来ない程、俺はあまりにも鋭い殺気を放っていた。

あの戦いの中で、力の力量などは他のやつらに負けていたのかもしれないが、その殺気だけは際立っていたのを思い出す。


「…ま、いいや。俺は腹空かなきゃどこに居てもいいからさー」


リリア姫を狙った親玉にも、男は同じことを言っていたのだろう。

でなければ、こうもあっさりと割り切れるはずもない。


「パンでいいか」


「おうともよッ!!!」


男は、勢いよくベッドから立ち上がった。

が、俺がつけた傷口が開いたのか直ぐにもがきはじめる。


こんな展開は、今で何度目だろう…。


俺は100%純粋の呆れを、ため息として出し、男を再びベッドの上に乗せた。


利き腕を負傷している今の俺では、男一人を持ち上げることすら難しく、あまりはしゃがないでくれるとありがたい…。


この能天気な男には、伝わらないとは思うが。


『あんたって変わりもんだよな』


パンを食べている男の言葉が地味に繰り返される。


とくに助けた意味はない。


ただ月の光が木の影で隠れ、通らない中で死にかける男の姿が、幼い時の俺を思い出させた。




『とおさま、かあさま…ぼく、は』


―…ただ、それだけだ。



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