氷姫に騎士を


城に男を連れ帰って、王や王妃、執事達が少しは騒ぐかと思ったが、そんなことはなかった。

俺が、『その男はリリア姫を狙った』と言ってなかったのが大きいのだろうが、一番の原因は男の状態があまりにも悪かったからだろう。

男を見て言った言葉は、「医者はいるか」「白い布と包帯を用意しろ」「何処かあの者に休む場所を」そんなことだった。

氷姫の城は、他の城と全く変わらない。

人の色、ぬくもりをちゃんと残している。

むしろ、普通以上に優しい場所だと、その時初めて知った。


それなのに何故、リリア姫は『氷姫』と呼ばれるのかが理解できない。



リリア姫を取り巻く環境の違いではなく、何か他のモノなのか。



「うひゃー…うまかったー」


ベッドの上で、すみれ色の瞳がキラキラと輝いている。


どうやら少し、太陽が沈んだらしく、男の姿が浮き彫りとなって現れていた。

夏を思い出す緑の爽やかさを持つ髪に、適度に鍛えられた体。

顔は幼さを兼ね備えながらも、大人のような面持ちをしていて、年は俺と大して変わらないように見える。

そして、耳に付けられている飾り物は、目の色と同じすみれ色。


「パンぐらいで大袈裟過ぎる言葉だな」


「おまっ、それをいうなよ!空腹ならなんでも美味いんだしー」





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