氷姫に騎士を
そういえば…
俺達とたわいもない話をする、男の名前を俺は知らないことに今初めて気付いた。
必要ないと思っていたんだろう。
「名前、何?」
もやもやが止まらず、つい口に出た。
「は?」
男は、普段にも増してアホ面をしている。
そんなにも意外だったか?
「ぶ…………はははははははっ!!!!!!」
俺が悩んでいると、男は急に笑い出した。
んだよ、バカにしてるのか?
「ひ、ひぃ、ははははっ、は……おっまえ、おもしれ…」
涙目になり、腹を抑え、壁によしかかりながら、天井を見ている。
そして、再び俺に視線を向けたときの目は、あの夜と同じ殺気を帯びていた。
「怪我が治れば俺はここにいる人間、全員殺すけど?」
怪我が治れば…そう。
どんなに親しんだとしても目の前にいる男は、敵だった。
だけど―…
「この城の人間に刀を向けたとき、俺は躊躇なくお前を斬る。その傷をつけたのは俺、だからお前に俺は殺せない」
しばらく、俺と男は互いの反応を見ていた。
そして、浅いため息をついた男は「レグザ」と静かに男の名前を呼ぶ。
この二日一緒にいて初めてこんなに静かな声を聞いた。
「お前おもしろいよ。主を裏切っても、お前についていきたくなるくらいに」
「…は?」