悪魔のKissを冥土の土産に
「やっほ。」

僕は後ろからの高い声に身を固めた。

「あのさ、これからカラオケ行くんだけど金なくてさ。」

耳元でいやな声が響く。

薄暗く人の通らないこの路地裏はやつにとって滑降の場所。

僕はまんまと引っ掛かったわけだ。

「ね、千円ぐらい持ち合わせてないわけ?早く出してよ。友達と待ち合わせしてるの。」

高い声は徐々に苛立ちを含んでいく。

「ぼ、ぼく、急いでるから。」

固まって重くなった足を無理やり前に進めた。

しかしその動きはすぐに後ろの影にはばまれた。

「あたしから逃れられると思うな。」

その影は僕の目の前に一枚の写真を見せた。

それには泣く女子の前で僕がみおろしているところが写っている…と言う。

それは前を通りすぎかけて泣いてることに気付きふと足を止めた瞬間だった。

しかしまるで僕がその女子を泣かしたように見える。

写真は一度先入観を持たせると他の見方を教えてはくれない。

そのため僕がどれほど説明してもきっと誰も信じてくれない。

「この写真、ばらまかれたくなければ金をよこせ。たったの千円じゃないの。」

背筋には一気に汗が滴り落ちる。

僕の逃げ場は完璧に塞がれた。

盗難防止のため、財布は家においてきてしまったため、今、一閃も持っていない。

女1人に負けたくて負けてやってる訳でなく、本気をだしてこれなのだ。

この話を誰かに話しても情けないの一言で終わるだろう。

僕はここで精神的な死亡をとげるのだ…。
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