悪魔のKissを冥土の土産に
「せ、センキュー」

僕も英語は苦手だ。

そのため片言の英語で対応しなければならない。

「You're welcome.」

キラキラした笑顔が路地裏の暗さを差し置いて輝いた。

「そ、それじゃ、シーユー…。」

僕はその光から逃げるように背を向けた。

しかしまたも僕の動きは塞がれた。

優しく白い手が僕の肩を押さえている。

「あなた、かっこいいよね。」

僕は思わず後ろを振り向いた。

「…に、日本語しゃべれないって言ってなかった?」

あまりに流暢に日本語をしゃべるために思わず声をかけたのだ。

「言葉が伝わらなければすぐに帰るかなって思ったの。」

僕より背の低い相手は短いスカートをひらひらさせて子供のように笑う。

この時代にこの姿は危ないのではないかと不必要な心配をしたくなる。

「ね、名前は?あたしはデイリー・ラン。」

あまりに聞きなれない名前にまるで異世界から来たような印象を持った。

「僕は葛城裕一。…その格好、寒くない?」

白く細い足が北風に当たり今にも折れてしまいそうだった。

「平気。いつもこれだから。ね、今からどこいくの?」

その様子はまるで幼稚園児だった。
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