お兄ちゃんです。
とりあえず話を聞くためにあさひさんから離れ、テーブルを挟んで座った。
昨日みたいにもうイライラしない。
なんでだろう??
「俺は大人の勝手な事情で、小さい頃にゆうちゃんとお母さんと離れることになったんだ」
大人の勝手な事情・・・。
「その時、俺は新しい環境にどうしても慣れなかった。突然、今日からこの人達が家族だよって言われてもどうしてもそうは思えなかった。」
なんだか胸がぎゅうぎゅうする。
あさひさんの方があたしよりずっとつらかったはずなのに。
あたしはなんてわがままなんだろう。
「俺の家族は、今も昔もゆうちゃんとお母さんだけなんだ。ずっとそう思って生きてきたよ。」
あさひさんからまっすぐ視線が届く。
あたしはそれをしっかりと受け止めた。
「でも、あの場所で生きていくためには家族として嘘でもいいから思わなきゃいけなかった。それに、そこで俺はやらなくちゃいけないことがあったんだ。だからあの場所で生きていこうと決めた。」
ふと視線が反れる。
あさひさんがふぅと長いため息をついた。
「でね、大学もそろそろ卒業で進路を考え始めた時に思ったんだ。このまま死んでいいのかって・・・。そん時にふとお母さんとゆうちゃんが浮かんだ。」
────ずっとずっと、3人で暮らしたかったんだ。
あさひさんの言葉が蘇る。
こんなに強く想ってくれていたんだ。
知らなかった。
なにも知らなかった。