こねたぼっくす
「…そう言えば、何かを借りに来たんですよね?一緒に探しますよ」
「ありがとう、歴史の本を探してるんだけど…」
「歴史ですか?じゃあこっちですね」
案内してくれるらしい。
小さな背中を追いかけた。
そう言えば、名前聞いてない。
「歴史ってことは…勉強ですか?」
「え?あー…うん」
ゲームが関わってるけど、勉強は勉強だ。
ていうか名前聞きそびれた。
よし、今度こそ…。
そう意気込んだけど、
「ここですよ。日本史は上から中間、世界史は中間から下になってます」
「あ…ありがとう」
「どういたしまして」
そこまで広くない図書室はすぐに目的地に着いてしまった。
彼女はふわりと笑ってカウンターに戻っていった。
……また、聞きそびれた。
借りるときに聞いてやる…!
なのにカウンターに行ったら、そこには彼女じゃなくって太った国語教員がいた。
「…あの、図書委員の人は……?」
「ああ、あの子ならさっき帰ったわよ。5時半になったら帰るのよね」
今は5時43分。
本の整理をしていたから遅くなったんだ。
「そう、ですか…」
せめて名前くらい、聞きたかったんだけどな。
今時の高校生にしては珍しい、日本人らしい子だったから。
今の人が忘れているような謙虚さだとか、思いやりだとか
初めて会ったけど、あの子なら持っている気がしたんだ。