運命の初恋愛
「ナースの中に、韓国語が出来る人がいて、その人が通訳をしてくれて」


「……へぇ」


通訳、という響きが寂しい。

だったら、今までの私は、何?

毎日毎日、伝わらない言葉で語りかけて――。



『意識が戻った時、自分が誰なのか、ってだけじゃない。今まで生きてきた『知識』や『生活習慣』、『言葉』や『感情』……その全てを覚えていなかったんだ』



って、前にそう聞いてたっけ。


それは分かっていたけど、でも、やっぱり悲しいよ……。

何一つ、足長さんには届いてなかったんだ、って思うと……。



「カン・ジュヨン……」


韓国の、ピアニスト……?
そんな人、知らないよ。


私は、ただ、足長さんに会いたいの。


いつもいつも寂しそうな、あの人のそばにいたいだけ。


だけど、もう――……
無理だよね。

こんなに遠い人なんだもん。


「足長さん……」


< 54 / 213 >

この作品をシェア

pagetop