ホワイトライト、サマーズエンド
「仕事断られて女にも逃げられそうだし、最悪だな。俺」

最後の1本に火をつけ、大きく煙を吸い込む。
最近ろくなものを食べてないせいか、視界がぼわっと膜がかかったように滲む。
俺はバイクのシートに沿って体を倒した。
両手を頭の後ろで組んだ瞬間、右手にビッと鋭い電流が走った。

見ると割れた腕時計のガラスが親指に刺さり、鮮血が溢れだしてくる。

「ひでえ1日だな」

わざと卑下するように呟いてみるが、みじめな気分は全く変わらない。
むしろ最悪の気分の濁流にのまれて押し流されていきそうだ。
半分も吸っていない煙草をねじ消し、傷口を舐めてエンジンキーを差し込んだとき、
階段の方から原の声が響いた。

「御崎さんももうちょっと俺の立場わかってほしいんだよな」

相づちを打つ声は後輩の、イギリスと日本のハーフのクリスのようだった。
クリスは顔はほとんど外人なのに英語が喋れない。
よく雑誌の撮影で顔を合わせる仲だ。

「そうは言っても、御崎さんはさわやか系っつーよりかは悪っぽいアプローチのがいいような気がするんすけど」

「ふざけんなよ。そんなんするにしてもポーズだけにしてくれよ。
ニーズに合わせてくんだよ。それが大人の仕事だろ?
地でヒールなあいつのマネージャーの立場とか、お前わかる?いつもすいませんって頭下げんだよ?」

「まー原さんが大変なのも知ってますけどー」

俺のいないとこでは原も大層な大口を叩けるようになった。
最初入ってきたばかりのときは俺の金魚の糞かと思うほどだったのに、
今は社長に洗脳されて完全に会社の駒だ。
しかしバイクから降りてまた原に掴み掛かるほど、俺はもう怒ってもないし元気でもなかった。
原とクリスはそのままバイク降り場とは逆の方へ進んでいく。

「今日はその辺飲みいきましょーよ」

軽いノリのクリスの声が遠くなる。俺はようやくキーを回しエンジンをかけた。
安定した振動が体に伝わる。
ヘルメットのフェイスカバーを下まで下げて、俺は一気にアクセルを踏み込み出口へ向かった。
2人が俺に気づいて、顔を見合わせた。
どうとでも言え、俺は一層アクセルを加速し、地上への坂を一気に登った。
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