ホワイトライト、サマーズエンド
夏休みのせいか大通りから路地の方まで人が溢れてきている。
流行のアイテムを一寸違わず揃えている者。
わたしは人とは違う、そういう顔をしながらどこかで見たようなコーディネートで固める者。
さまざまな格好の人間たちがぞろぞろ同じ方向へ歩いて行く。
ファッションとは、個性を主張するものではなく、属性を主張するものなのかもしれない。
こういう仕事をしていると自分もそう、いかにもファッションモデルだと指差されているんだろう。
常に見られていると意識するようになってから、
どこか強迫観念から好きなものより旬のものを身につけなければいけない、と思うようになった。
結局俺もこの世界の決まりどおり、属性を表す物を身につけたがっているんだろう。

路地を裏に進み、人混みを抜け外苑西通りを南下する。
遠くに見えた太陽の姿はもうなく、薄紫に照らされた雲だけがビルの合間でたゆたう。
青山墓地の木々の茂みは黒くざわめき、
西麻布に着いたときにはタクシーのテールランプが連なって、天の川のように見えた。

いつもここで自問自答する。

巨大な首都高の高架、気取った店の並ぶ通り、左ハンドルを握る女のサングラス、
金持ちそうな老婦人の持つケリー、タクシーから降りるバッチをつけた黒い中年の男。

そして信号が変わるのを待つ俺。

想い描いたものはなんだったのか。
18歳の俺は25歳の俺を未だに傍観する。

六本木方面へ曲がると、ハンドルに押し付けた右手の傷が痛んだ。

「とりあえずまず家帰るか・・・」

六本木通りを真っすぐ進み路地に入れば俺の住むマンションがある。
1DKの家賃20万のマンション。
不自由なことは何もない。社長から俺にあてがわれた寝床だ。
荷物は無数に増えて行く着替えと酒ばかりで、ろくなものは何もないのだが。

帰ってからリオの家へ行くか行くまいか、俺は考えながら路地を進み、
道の先を見てアクセルを踏む足を思わずゆるめた。
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