ホワイトライト、サマーズエンド
女を起こさないように部屋のキーを開け、ドアを開ける。
当たり前だけれど朝自分が出たままの部屋の有様は俺を余計に疲れさせた。
玄関に溢れ返るブーツや、1回も履いたことのないスニーカーの海を掻き分け、
土足のままベッドまで女を運ぶ。
完全に力の抜けた人形のような腕がだらりと、下で振り子のように揺れる。

ベッドに降ろしても女は一向に眠りこけ、起きる素振りはない。
ワンピースがまくれあがり、白い太ももが覗く。
手脚は細く、華奢で頼りない。
自分のベッドが何倍も大きく見えた。

少し目眩を覚えた俺は腰を下ろし、しばらく女を見つめた。
黒い長い髪、憂いのある切れ長の目、ツンとした鼻、薄い口唇。
そのどれもが艶を称えているのに、どこか女は少女のような雰囲気で眠っている。
今まであまり出会ったことのないタイプの不思議な女だ。

黒いマニキュアが塗られた足に触れてみる。女は一向に起きない。
俺がそのまま手を太ももまで這わせると、不健康そうな見た目に反して肌は柔らかく吸い付く。
まるで10代の少女を思わせる。
理性が薄れかけたとき、ふいに彼女の腕の傷が目に入った。

左腕の手首を中心に肘まで刻まれたそれは新しくはないものの、完全に風化してはいなかった。
浅黒い無数の線が、白い細い腕を汚している。

まだあどけなさの残る女。その心の中に、ナイフを自らに向かわせる何かがいる。

俺はその「何か」にすうっと、頭から足先まで熱が冷めるのを感じ、女から手を離した。
冷蔵庫からビールを出しそれを一気に喉に流し込む。
カラカラの喉と身体は急速に水分を欲して、アルコールは一日の疲れを如実に思い出させる。
上から重力が倍になってのしかかっているように、俺は身動きが取れなくなった。
指の傷の痛みと、全身のだるさが遠のくと同時に俺は深い眠りに引きずり込まれた。
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