ホワイトライト、サマーズエンド

2.翌朝の応酬

ベッド横のサイドテーブルにはディオールのオードトワレと、
飲みかけのミネラルウォーターのペットボトルと、小さな写真立てがあった。
写真は海をバックに、1組の男女が映っている。
顔はよく見なければわからないくらい引いたアングルの写真で、
背が高い男の方はハーフパンツのポケットに手を突っ込み、浜辺に立っている。
横に映る女はその男に駆け寄ったのか、顔だけこちらに振り向いていた。
無邪気に笑っているようでどこか毅然として見える女の笑顔。
写真は絵ハガキのような構図で、スナップ写真として見るには少し違和感を覚えた。

「この人の部屋?」

顔が小さく彫が深くて、雰囲気のある男。芸能人みたいだ、と思った。
長めの前髪が濡れて頬のあたりで無造作に踊っている。
細い手脚は適度に筋肉がついて引き締まった印象だ。
わたしはこの男に触られたのかどうか、横に映るボブヘアの女性と見比べて考えてみた。

ガシャン、という音がしてわたしは写真から目を逸らし咄嗟に振り返った。
糸を何本も垂らしたようなのれんのようなカーテンの隙間から、キッチンの方でうごめく男の影が目に入る。
間違いなく写真の男、なんだけれど写真の印象とはだいぶ違う。
無造作に伸びた髭、ぼさぼさの髪、何より写真に漂うオーラのようなものは見当たらない。

「やべ・・・」

テーブルの下に、割れた皿が落ちていた。
男が起きたはずみに落としたのだろう、青い縁取りの入った小さな皿は3つに分かれている。
のろのろと立ち上がろうとする男に向かって、わたしは意を決して叫んだ。

「ちょっと、危ないよ」

うわ、と男はハリネズミに触れたみたいな声を出した。
わたしがいること、忘れてるわけ?何が何だかわからず、わたしは男に問いかけた。

「ここあんたんち?」

男はあぁ・・・と溜め息をつくとクマが刻まれた鋭い目をこちらに向けてわたしを睨んだ。
男はブーツを履いたままで、割れた皿を足でよけて再びどかっと椅子に座り直した。

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