ホワイトライト、サマーズエンド
「あんた、何も覚えてねえの?」

「覚えてるよ。赤ワイン飲んでたの」

「記憶がなくなるまで飲むなよ、つーか道で寝るな」

「道でなんて寝てない、車で寝てたでしょ」

「いや、路駐だし同じだから」

男はだるそうに目をこすりながら親指で窓の方を指差した。見ろ、ということらしい。
わたしは腕組みをしたままマンションの窓から下を見下ろした。
カーキ色のジープ、車道からマンションにかけて確かにひどい止まり方をしていた。
わたしは当てにならない自分の記憶を反芻する。多分あの中年の男に言われて、車を動かし直した結果だ。

「そんでなんでわたしがここにいるわけ?」

わたしが精一杯の不審を目の中に溜め込んで男を見ると、男は面倒臭そうに答えた。

「あんたが酩酊してなかったらそりゃ車どかせよ、で終わりだけどよ、
俺が話かけたらあんた完全に泥酔して、俺に抱きついてきたんだぜ」

男は片の眉を少し動かし、鼻で笑った。わたしはそれにかちんと、熱くなった。

「あぁ、そう。誘ったのはわたしってわけ。それはどうもすいませんでした」

わたしが声を荒げると、男は同じ笑みで嘘だよ、と言った。

「何なのアンタ、最低」

「最低で結構。別に今からお前犯して嘘じゃなくしてもいいけど」

さっきまでの笑みは消えて、逆に男は無表情だった。
男は言うと椅子から立ち上がり、こちらへ近づいてくる。

「ちょっと、やめてよ」

「絆創膏取り来ただけだよ」

男はベッドのサイドテーブルの引き出しを開けて、救急箱を取り出した。
そのまま絆創膏を取り出すと右手の親指の付け根にそれをぐるっと巻き付けた。

「何それ」

「いちいち気に障る聞き方すんな。可愛げねーな」

もしかしたら記憶がない間にわたしがつけた傷かもしれない。
そう思ってわたしは噴出する感情をおさえ、出来るだけ穏便に言ってみる。

「・・・大丈夫?」

「やれば出来んじゃん」

ムカつく言い草、気に障るのはどっちだ。
ちょっとばかし格好良いからって調子に乗る典型的なタイプ。
気取ってるのが鼻につく。こういう奴が一番ムカつく。
わたしは抑えきれなくなって拳を握りしめた。

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