ホワイトライト、サマーズエンド
六本木通りに出て右へ曲がり、西麻布の交差点の方へ歩く。
坂を過ぎ行く車のマフラー、立ち並ぶビルの冷房の室外機が混在する通りは路地に比べて2℃は暑い。
コンビニまでの距離は100メートル、人々は思い思いのやり方で、暑さを逃すのに必死だ。
上着を脱ぎ、肉づきのいい肩を露出するOL風の女。
ひたすらハンカチでにじみ出る汗を拭い、それでも上着は脱がない背広の中年。
ハーフパンツを履いた少年2人は、ソーダアイスをかじりながら横断歩道の上をトカゲのように走り去る。
俺はというと既に着ているシャツの第3ボタンまではだけていて、
それでもアスファルトから立ち上る熱気でむせ返りそうだった。
ブーツなんか履いてきたことをひどく後悔する。


煙草を一本吸おうとポケットへ手を入れたそのとき、甘くて鼻につくどこかで嗅いだ匂いが鼻をついた。
瞬時に脳内で香りと記憶とが結びつく。昨日の女の、バニラと煙草の混ざったような、甘ったるい重い匂い。


振り返るとそこにいたのは昨日の女ではなかった。
長身で細身の、黒づくめの男が俺の横を通り過ぎたところだった。
このくそ暑い中、男は黒いシャツに黒い細いパンツ、
それに黒いマーチンというある意味気合いの入った出で立ち。
女の車に赤いマーチンが置いてあったことを思い出す。
俺を追い越した男はそのまま数件先の雑居ビルへ入っていった。
俺は少し迷いながらも、距離を保ち男をつける。

男が入った先は行きつけのバー『サニー』のある雑居ビル。
1階は鍵屋で2階がサニー、3階が中古レコードの店。
俺は男の足音が聞こえなくなったのを確認して、後から階段を上がった。
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