ホワイトライト、サマーズエンド
「ふざけんなよ」

そう口にしてエントランスに向かって右の壁に思い切り拳を叩きつける。
ビシッと音がした。
腕時計の表面のガラスにヒビが入っている。壁はなんともない。
俺は笑ってみた。はははは、と。

絵に描いたように傍若無人に振る舞い、受付のカウンターの花瓶を振り落とし、
来客用の傘立てを蹴って風を切りながらエントランスから外へ出ると、たちまち生温い空気が全身を包んだ。
毛穴にぴったりとはりつくような不快な暑さ。
腕時計を見るとヒビが入ったガラスの奥で、針は正確に盤面の数字を指している。

3時57分。

結局のところ俺にどんな事件が起ころうとも、起こらなくとも、
ただカチカチと秒針が時を刻みいつもの時間軸で今日が進む。
時間も人間と同じように見て見ないふりだ。

そしてそれが当然のことだってことも、わかりきっている。


後ろで社長の呼ぶ声が聞こえた気がしたけれど、俺は無視して地下の駐車場への階段を駆け下りた。
駐車場には社長のフェラーリと、原のBMW、それに後輩たちのポルシェなんかが並んでいる。
その中で逆に、国産の軽自動車が目立っていた。
助手席の前にディズニーキャラクターのぬいぐるみが並んでいる。多分あの受付嬢の車だろう。
俺はディズニーランドが好きでも嫌いでもないが、記憶もそぞろな頃に祖母に連れられて行ったのと、
学校に連れて行かれたのとで2回しか行ったことがない。

そして他に特筆することがあるならばそこが、俺とリオが初めて話した場所ということ。
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