となり
『桜の木が…』と
一瞬言葉を濁し私は
『あっ…うん、話が長くて退屈だったんだもん』と
笑いながら言葉を言い返した
別に隠すつもりは
なかったけれど
なぜか秘密に
しておきたいと思った
母親はニッコリ笑い
私の肩を叩き
『さぁ、帰るわよ』と
机の上の教科書が入った
紙袋を持ち教室を出て行く
母親の後ろを歩き廊下へ出ると
自然に足が向いた

『ちょっと…先に行ってて』と
母親に声をかけ
体育館へと走りだしていた

やっぱり気になる…
どうしても行かないと
いけない気もした…
さっきまで賑やかだった
体育館は静かで音ひとつない
体育館の横を通り
あの桜の木の下に立つ
風が吹き抜け桜の花びらが
散りながら揺れていた
さっき見えた人の気配はない
私は桜の木の下を
ゆっくり一周してみた
ザワザワと風で葉が揺れ
…ハクションと
急にクシャミがでる

その時…『誰?』と
桜の木の上から声が響く
やっぱり誰かいる…
『誰かいるの?』と
おどろおどろに問いかけると
『今日は暖かっくてすげー気持ちいいんだぜ』と
少し低いハスキーな声で
木の上から彼は答えた

それが彼と初めて
出会った瞬間だった
そしてこの時から
私と彼の運命の歯車が回り始めたんだ
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