となり
そしてしばらく
車は走り続けると
家の向きとは違う道のりに
私は不安な気持ちで
窓の外を見ていた

ようやく目的地に
たどり着いたのか
急に母親は車を停め
何も言わずに車を下りる
私も母親に続いて外に出ると
目の前には小さな
産婦人科の病院があった

そして今まで黙っていた
母親が急に口を開いた

『ここはね、お母さんが、もえを産んだ場所よ。ここならきっと、大丈夫だから、何も心配いらないから。お父さんに知られないうちに、済ませてしまえば、何もなかったことになるでしょ。きっと大丈夫』と
私の手をギュッと
強く握りしめ歩きだした

『お母さん?何言ってるの?知られないうちにって、どう言うこと?』と
私の問いかけに
母親は何も答えず
握っている手の力を強めた

中に入り受け付けを済ませ
待合室の椅子に座り
母親は私の手を更に
一層強く握りしめ
少し小刻みに
震えているのがわかった

『七瀬さん、中にお入り下さい』と
看護婦さんの言葉に
私と母親は診察室に入る

『七瀬さん、どうしましたか?』と
先生の問いかけに
母親は頭を深く下げ
『娘が妊娠をしまして、その、処理のほうをお願いしたいんですが』と
私は母親の言葉に
動揺が隠せなかった
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