となり
彼に何かあったんだと
私は感じ彼の震える
体をゆっくりと擦りながら
『空太?どうしたの?』と
小さく問いかけたが
彼は何も言わずに
ただ強く私を抱きしめ
その場からしばらく動かなかった

私はそれ以上何も言わずに
ただ彼の胸の中でじっと
彼の体温を感じていた

『もえ…』と急に彼が口を開く
私は『ん?』と彼に言い返すと
次の瞬間―彼の口から
信じられない言葉が
私の耳に聞こえると
鼓動の音が段々早くなった

『えっ?今…何んて?』と
私は彼の言葉を
疑いながら問いかける

『もえ、ごめん…。俺、他に好きな人が出来たんだ。もう、もえとは付き合えない…』と
今度ははっきりと聞こえた
彼の言葉に私の頭の中は
真っ白になり理解できない―

『何?嘘でしょう?空太?何かの冗談でしょ?』と
私の再びの問いかけに
『ごめん、もえのことは、もう好きじゃない。俺のことは、忘れて欲しい。別れて下さい』と
彼は真っ直ぐに私を見て
真剣な顔をし言う

『嘘でしょ?』と
私は何度も何度も
彼の体を揺らしながら
問いかけるが
彼は首を横に振り
『嘘じゃない。電話より、直接言ったほうがいいと思ったから。ごめん』と
彼はそれ以上何も言わずに
私に背中を向けた
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