となり
私の言葉に母親は何も言わずに
林檎をお皿にのせ
私の前に置いて行く
そこには可愛いく
ウサギの形にされていた
林檎の姿があった

ウザキの形の林檎―
運動会や部活の大会など
学校の大事な行事や
誕生日や私に何か
特別なことがある時に
必ず母親はリンゴを
ウサギの形に切ってくれる

それを私が美味しそうに
笑顔で食べるのを見て
『頑張ってね』と
声をかけてくれるのが
母親の習慣事だった
だけど私はいつもそれが
何だか特別な気分になり
小さい頃から好きだった

そして目の前に置かれた
リンゴをひとつ手にし
口に入れると
いつも言ってくれる
¨頑張ってね¨の台詞はなかった

私はリンゴを頬張りながら
母親の顔を見ると
母親は私の視線に気付き
そして私に背を向けた

『お…お母さん…?』と
私が声をかけると
『本当にわがままで勝手な子ね。誰に似たのかしら…お母さん、今回は頑張って…なんて言わないわよ』と
少し小刻みに震えていた

私は母親の背中にしがみつくと
母親は声を殺して
泣いるのがわかって
私も思わず涙が流れた
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