となり
廊下に出ると
授業をしている隣の教室から
生徒の声がした
母親は私の顔を見ると
『大丈夫?じゃあ、行こうか』と
声をかけ私の持っていた
荷物を半分手に取り歩き出す

玄関へと続く廊下が
さっきまでは寂しい気持ちで
いっぱいだったのに
今はとてもスッキリしていた

『お母さん、ちょっと寄りたい場所があるんだけど』と
私は母親に告げると
母親は何も言わずに軽く頷き
私の手から全ての
荷物を奪うと軽く笑う

『ありがとう。すぐ戻るね』と
母親に言うと私は走り出した

そして私は生徒に
見つからない様に
あの彼と出会った
桜の木へ向かう

校舎を出て外廊下を出ると
体育館で授業をしているのか
生徒の声がしていた
私は静かに脇から裏に抜ける
風が顔に当たり心地良かった

『しばらく、この場所も来られないな』と
私は呟くと桜の葉は
ただ静かに揺れている
私はそっと木に触り
『ここはね、お母さんとお父さんが出会った思い出の場所なんだよ』と
小さく呟きお腹に手を当てた

何も返事はないけれど
何だか温かい気持ちになった
そしてチャイムが鳴り響くと
私は慌てて母親の待つ
車に足早に戻った
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