となり
『先生の話ですと、ただ症状を遅らせる薬治療しか今の医学では治すことが出来ない病気だそうです。私達も何もすることが出来ないまま、息子は…』と
煙草を持つ手が震えているのが
彼女にはわかった

『そんな…ことって』と
口にし彼女もまた
冷めかけたコーヒーに
手を伸ばそうとすると
直人が口を開いた

『もえさんには、どうか息子のことは秘密にしておいて下さい。息子がこの病気を知った日、もえさんに会いに行ったみたいなんですが、自分が弱って行く姿をもえさんだけには見せたくないと、もえさんに別れを告げたらしく。それからと言うこと、息子は家から全く出なくなり、食事あまり取らず、今は病院で入院生活をしています。まだ症状も初期段階だったんですが、薬も服用していなかったせいか、症状の進行が早くて、今はもえさんが知っている息子の姿はないんです。もえさんには、とても感謝しているんです。息子のことで色々とよくして頂いたからこそ、私達は息子と一緒にいられるようになったんですから。それに息子も、もえさんが一番大切だからこそ、別れを決めたんだと思うんです』と
直人の言葉は彼女に
重くのしかかった
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