となり
トントンと扉を叩く音がし
そして次の瞬間
先生と看護婦さんが
病室に入ってくる

『七瀬さん、どうですか?あらっ、ご飯は食べないのに、お母さんの剥いた林檎は食べれるの?』と
看護婦さんは少し笑いながら
体温計を私に差し出し言う

私は体温計を受けとると
上着の下から脇に挟む

『すみません。娘がご迷惑をおかけして。今日からは、きちんと食事取らせますから』と
母親が頭を下げると
看護婦さんは笑顔を見せ
『そうですね。七瀬さんとは、今日からきちんと食事を取るとお約束しましたから』と
先生の言葉に私は軽く頷き
再び林檎を口に入れた

看護婦さんはニッコリ笑い
そして林檎を見る
『あらっ、可愛いウサギの形?』と
看護婦さんの言葉に
私は体温計を脇から取り
そして看護婦さんに渡す

『何かあるたびに、昔からこうして林檎はウサギの形に剥くんですよ』と
母親が言うと看護婦は
カルテに体温を書きながら
『何か?今日は何か特別なことがあったんですか?』と
看護婦さんの問いかけに
母親は違和感を感じさせる
笑い方をしながら
何も言わなかった
< 335 / 411 >

この作品をシェア

pagetop