となり
階段を登りながら
彼はドキドキしていた
そして半分は不安な気持ちもあった
それはもえが妊娠と言う
事実に彼はまだ戸惑っていた

彼は病室の前に立つと
゛七瀬もえ゛と書かれた
扉のネームプレートに
ゆっくりと指でなぞる
そして彼は扉に手をかけ
あえてノックもせずに
扉を静かに開けた
そこには久しぶりに見る
もえの後ろ姿があった

カーテンが全開で
日差しが眩しく照していた
もえは窓際に立ちながら
体を少し震わせている
彼はもえが泣いているのが
すぐにわかった―

そしてすぐにでも近づき
もえを抱き締めたくなる
手をグッと押さえながら
彼は扉を静かに閉じて中に入る
もえはまだ彼の存在に気付かない

そして彼は少し前に進むと
『また、泣いてんだな?』と
もえに言葉をかけると
もえは少し驚きながら
声がした方に振り返った

そこには彼の姿―
もえは自分の目を疑った
< 396 / 411 >

この作品をシェア

pagetop